月もあるし海もある

上手に生きてみせますよ

しいたけはまだ食べられないですけど

 予告の雰囲気に惹かれた恋愛映画の原作小説を読み始め、半分ぐらいのところで嫌な予感がよぎり、許せないことばかりが気になって苦しみ半泣きになってしまった。その気持ちが3日経った今も消えないので文字にして、一旦自分の体から引き剝がしたい。

 誰も悪くないけれど、強いて言えばミスドで一人苦悶している私が悪い。ドーナツ屋で露悪的になるな、小麦粉のことだけ考えていろ。

 子どもは親の恋人じゃないとか、浮気はするなとか、元カノへの未練を滲ませるなとか、未成年への性的欲求を露にするなとか、色々あるけれど、私が拒絶したこの物語に心打たれ、綺麗な涙を流せた人もきっとどこかにいる。というか絶対いる。レビューや他人の感想がすぐ目に入る今の世界で、私の性格・信条・偏見のせいで味わえなかったうま味を美味しそうに頬張っている人の姿を見ては悔しくなってしまう。

 元はと言えば、恋愛映画への食わず嫌いを直したくて始めたことなのに、余計に自分の中の偏った心を強化してしまった気がして殊更悔しい。いつの間にこんなに心の狭い人間になってしまったんだろうと思う。「善き人間になりたい」と呟いた人のことを思い出した。

 勝手に傷ついた心をなんとかしようと慣れ親しんだ音楽を聴いて、何度も見た映画をまた見て、話を聞いてくれる友人に愚痴をこぼして、急いで自分を慰めようとした。必死になってかわいそうに、とも思ったけど、諦めたくない、とも思っている。

 多分またやる。また自分の価値観と相容れないものを手に取って、また具合を悪くして、自分のつまらなさに嫌になる。それでもまたやる。私だってちゃんと食べられるんだぞと言いたい。